【ハンドドライヤー=悪ではない】正しい知識を身につけよう

ハンドドライヤーwikipedia

ハンドドライヤーはレストラン、ホテル、オフィスビル、医療施設、教育機関、商業施設、駅、空港など様々な場所で利用されている手指乾燥機です。

ランニングコストの安さや環境負荷の少なさを前面に押し出して、それまで主流だったペーパータオルのシェアを徐々に奪っています。

総称はハンドドライヤーですが、メーカー毎に独自の名称をつけている為、それぞれの商品名の方が馴染み深い人もいるかもしれません。

よく知られているのはジェットタオル(三菱電機株式会社)、エアータオル®(東京エレクトロン株式会社)、クリーンドライ(TOTO株式会社)、パワードライ(パナソニック株式会社)、Airblade™(ダイソン株式会社)あたりですね。

不衛生というレッテルを貼られてしまったハンドドライヤー

急速に普及してきたハンドドライヤーですが、ここ数年『不衛生』という理由で使わない人が増えているようです。

人々に影響を与えたのは、複数の研究結果とそれらを紹介したメディアです。

それらの研究の中で最も有名なものはウエストミンスター大学のPatrick KimmittとKeith Redwayによる”Evaluation of the potential for virus dispersal during hand drying: a comparison of three methods”といわれています。

手に意図的に大量のウイルスを付着させた後、ペーパータオル、一般的なハンドドライヤー、Dyson Airblade(Dysonが製造しているハンドドライヤー)の3種類でそれぞれ乾燥させた時に周囲に対してどれくらいの悪影響を与えるのかを調査したのがこの研究です。

汚染された状態の手を乾燥させるわけですから当然付着したウイルスは風によって周囲に広がります。結果、風の強い順にDyson Airblade>一般的なハンドドライヤー>ペーパータオルと周囲にウイルスを広げる事となりました。

具体的な数字ですが、Dyson Airbladeは一般的なハンドドライヤーの60倍、ペーパータオルの1300倍のウイルスを空気中に放出したという事です。

1300倍という数字だけをみると異常に高いように感じますが、ペーパータオル使用時のウイルス放出量自体が0に近いくらい少ない点には注意が必要ですね。

Patrick Kimmittらはこの研究結果をもって、ハンドドライヤーは不衛生であり医療関係施設や食品関係施設など特に衛生面に注意が必要な場所で使用するのは適当ではないと結論付けています。

この研究を紹介したネットニュースなどを見て『ハンドドライヤー=不衛生』と考えるようになった人も多いのではないでしょうか。

ハンドドライヤー業界とペーパータオル業界の戦い

実はウエストミンスター大学(Keith Redwayら)がハンドドライヤーに対して批判的な研究を発表したのは今回が初めてではなく2008年にも別の研究を発表しています。

この時は乾燥の不十分さ、細菌増加数の比較、細菌の周囲への分散、ハンドドライヤーの汚染状況などについての調査を行っています。

これらの研究結果はウエストミンスター大学が後援を受けているeuropean tissue symposium(ETS:ヨーロッパのティッシュペーパー生産者の大半が加入している業界団体)のホームページのトップに載せられています。

長きにわたって、ハンドドライヤー業界はペーパータオルのランニングコストや環境負荷などを批判し、ペーパータオル業界はハンドドライヤーの衛生面を批判する事によってシェアを奪い合ってきました。

このシェアの奪い合いがなくならない限り、これからもこのような研究は続いていく事でしょう。

ちなみに環境負荷についてはDysonから依頼を受けたマサチューセッツ工科大学(MIT)が2011年に”Life Cycle Assessment of Hand Drying Systems”を発表しています。

MITはライフサイクル分析によってペーパータオル、従来のハンドドライヤー、ハイスピードハンドドライヤー(Excel DryerやDysonの製品)の内、最も環境負荷が少ないのはハイスピードハンドドライヤーと結論付けています。

このようにそれぞれの業界が大学などに依頼して相手の欠点を調査させ自らの優位性を示そうとしているのです。

数あるハンドドライヤーメーカーの中でも特にDysonが批判されているのは商品の特性や企業の規模、欧州におけるシェアなどが大きいと思いますが、それに加えてDysonの他者に対して攻撃的(ペーパータオルはもちろんの事、同じハンドドライヤーに対しても)な企業方針を危険視されているのかもしれません。

わたしもDysonの商品は性能面やデザインは素晴らしいと思いますが、あの営業方法は少し苦手です。元来おとなしい日本人には刺激的すぎるのかもしれません。もう少しオブラートに包んだ表現をすればよいのにと思ってしまいます。

Dysonの反論と互いの問題点

では話を”Evaluation of the potential for virus dispersal during hand drying: a comparison of three methods”に戻します。

企業から委託を受けているとはいえ研究結果として発表している以上、数値に間違いはなくAirbladeがウイルスを広範囲に拡散してしまうのは紛れもない事実です。

では、この研究結果に対するDyson側の反論ですが、まず大前提として高濃度のウイルスを意図的に手袋をした手に付着させ、その後に手を洗浄する事なく乾燥させるというありえない条件で行った研究の意味を問いました。

後は、本製品が短時間で手を完全に乾燥可能な事やHEPAフィルターを搭載している事、NSF(NSFインターナショナルとは米国ミシガン州アナーバーに拠点を置く非営利第三者認証・試験・規格開発機関であり、公衆安全衛生の分野で国際的に認められている)プロトコルP335認証をハンドドライヤーの中で唯一有している事などを示し、衛生面で全く問題がないと反論しています。

この調査が非現実的な条件下で行われているというDyson側の言い分は尤もなことです。日常生活でわざと手にウイルスを大量に付着させハンドドライヤーを使用する事などありえません。

より衝撃的な数字を示し驚かせたいという研究者側の考えも理解できない事はありませんが、このような研究は現実に即した形で行われるべきです。

ただ、Dyson側が示したその他の部分については、わたしたちにこの研究結果が誤りだと認識させるには不十分のように思えます(それらはDyson公式サイトに載っているレベルのものでこの研究結果への具体的反論になっていない)。

どちらの業界でも構わないので、現実的な条件(手を洗浄した後に乾燥させる)でハンドドライヤーがどれくらいの量のウイルスや細菌を拡散させてしまうのか、ペーパータオルを使用した場合とハンドドライヤーを使用した場合では具体的にどれくらい感染率に差があるのか(トイレなどでは元々いたるところに細菌やウイルスが付着している状況なので新たに拡散しても感染率にそれほど差がないのではという意見もある)などのデータを最低限示してもらいたいものです。

どちらを設置すればよいかはケースバイケース

ではハンドドライヤーとペーパータオルのどちらを設置すればよいのかですが、これはケースバイケースと言わざるを得ません。

様々なデータを総合すると衛生面ではペーパータオル、環境負荷やコスト面ではハンドドライヤーに軍配が上がると思います。しかしこれは整った環境においてです。

例えば皆さんは様々な施設のトイレでペーパータオルを使おうと思った時、空っぽだった事はありませんか、また廃棄されたペーパータオルがゴミ箱に入りきらずに散乱している光景を見た事はありませんか。

ペーパータオルが空っぽなら手を乾燥させるという本来の目的すら果たせませんし、床に散乱した湿ったペーパータオルは細菌やウイルスの温床になります。これではとても衛生的とはいえません。

ペーパータオルを切らさないように補充し、廃棄されたペーパータオルや床、ゴミ箱の清掃などを短いスパンで行わなければ清潔に保つ事はできないのです。逆にいえば、それらをしっかり行えるなら間違いなくペーパータオルは最も衛生的な乾燥方法でしょう。

環境負荷やランニングコストを重視し、頻繁にトイレの清掃ができないような条件下なら間違いなくハンドドライヤーに軍配が上がります。

さらにハンドドライヤーは導入時のコストはかかりますが、非常に丈夫でなかなか壊れないようです。

一回出たらこれ壊れないんですよ。10年、20年前につけたものまだ使ってますからね。たとえば多店舗展開してるチェーン店だと新規開店もすればつぶすものもあるんです。そのとき使えそうなものを倉庫に入れておいて新しい店ができるときに使う。逆にこわれるとそのメーカーはだめっていうので売れないしそういう意味では難しいです。消耗品の方がいいですね

どうやったら早く乾く?ハンドドライヤーメーカーにきく – デイリーポータルZより引用

ただコスト意識が高すぎるばかりにハンドドライヤーを弱モードで使う施設を多々見かけます。これはコスト面以外では何もメリットがありません。

強モードでの使用に比べ弱モードは乾燥までに2倍以上時間がかかります。手をしっかり乾燥させないと細菌が増殖する上、利用者もなかなか乾かない事に不快感を示します。

もしメーカー側がコスト面のみをアピールし、弱モードでも大丈夫などと薦めてきた場合、その営業はハンドドライヤーに関する基礎的な知識すら有していない可能性があるので要注意です。

稀に場所的な問題で大きい音はNG(強モードは稼働時の音が大きい)という施設もありますが、その場合ハンドドライヤーの導入自体を見送るべきです。機械の性能を発揮できなければ意味がないですから。

結論としては極めて高い衛生管理が必要な医療施設や食中毒を引き起こす可能性のある飲食店では清掃を行き届かせた上でペーパータオルを使用する事をおすすめします。

それ以外の施設に関しては衛生面やコスト面、どれくらいのメンテナンスができるのかなどを比較衡量して決めればいいと思います。

メディアの情報を鵜呑みにせずに自ら考える

メディアは常にわたしたちに刺激を与えるような題材を探しています。ハンドドライヤーはいたるところに設置されている身近なものですから不安になった方も多かったと思います。

メディアが発信した情報の中には衛生管理のプロである医師の看板を使ってハンドドライヤーを批判したものもありました。

『医師がいうからには間違いないハンドドライヤーは不衛生で危険なものだ』と思うのも無理はありません。

しかしながら、日本には30万人以上の医師がいます。

ハンドドライヤーは不衛生だから使わないという医師もいればハンドドライヤーは優れた製品だから使うべきだという医師もいるのです。

さらに医師が語る事は全て正しいわけではありません。

医師の中には寄稿文に『トイレの中で細菌やウイルスが増殖する』などと書いている人もいるくらいです(ウイルスは他生物の細胞の中でしか増殖できない)。

医師や専門家が言っている事だから間違いないと思うのではなく、本当にそれは正しいのかと自分で考える事も必要なのです。

例えば『ハンドドライヤーはウイルスや細菌を拡散してしまうとメディアは発信していたけれど本当に全てのハンドドライヤーがそうなのか』と疑問に思ったなら調べればよいのです。

今はユビキタス社会なので誰でも簡単に調べる事ができますから。

ハンドドライヤーCrena1
ハンドドライヤーCrena2
ハンドドライヤーCrena3
画像:株式会社AirLabo公式サイト

メーカー説明によると、このCRENA(クレナ)は従来の『吹付式』ではなく『完全吸引循環式』を採用する事でこれまでのハンドドライヤーの問題点であった周囲に細菌やウイルスを拡散させる点を改善しているようです。

もしCRENAのメーカー説明に間違いがなければ、これまで導入に適さないと考えられていた医療施設や飲食店でも問題なく設置できる事でしょう。

このようにメディアの情報を鵜呑みにせずに自ら考え調べてみると新しい発見もあるかもしれません。

重要なのは正しい手洗いとしっかりとした乾燥

ハンドドライヤーについて長々と書いてきましたが、一番重要な事を書くのを忘れていました。

それは乾燥前にしっかりと手洗いを行う事です。

正しい手洗いで手に付いた細菌やウイルスをしっかり洗い流さなければどの乾燥方法を選択しても意味はありません。

さらに、せっかくハンドドライヤーが設置されていても正しく使えていない人が多いのが現状です。

一番重要なのは手をしっかりと乾燥させる事です。

ハンドドライヤーに手を入れても2~3秒で手を抜いてしまう人をよく見かけますが、これでは手は湿ったままで細菌を増殖させる事につながります。ハンドドライヤーを使用する時は完全に乾かす事を心がけましょう。

ただ、設置台数が少ない場合などは乾いていないのが分かっていても後ろの人に気をつかって途中でやめてしまう場合もあるようです。

これは施設側の問題でもありますので設置台数を増やしたり、よりハイパワーのものを導入する事で対応して欲しいものです。

Dyson Airblade Tap1
Dyson Airblade Tap2
画像:Dyson Airblade Tap-Dyson

その他、Dyson Airblade Tapのように蛇口とハンドドライヤーが一体となったものならシンクで手洗いと乾燥が完結するので混雑が減りゆっくりと手を乾燥させる事ができるかもしれません。

シンクの手前側に乾燥装置が付いた商品を見かけた事があります。Airblade Tapと同じくシンク内で手洗い&乾燥は完結するのですが、乾燥装置付近の水が異常な程に飛散したので個人的にはうーん・・・と思ってしまいました。

まとめ

わたしは今回メディアで伝えられている『ハンドドライヤー=悪』というのがどうしても納得できなくてこの記事を書くに至りました。

そして記事を書く為にいろいろと調べていくうちにハンドドライヤーの良い部分も悪い部分も知る事ができたと思います。

わたしの出した結論は、やはり『ハンドドライヤー=悪ではない』という事です。この道具は非常に便利なものであるし、使い方や機種次第では衛生面もクリアできると思います。

北米ハンドドライヤー市場推移予想イメージ
グラフ:Hand Dryers Market Size And Share, Industry Report, 2024-grand view reseachからイメージ作成(イメージ作成の為数字に若干の相違有、正確な数字はレポートを確認してください)

世界的に有名なマーケットリサーチ&コンサルティング企業であるGrand View Research社の北米を対象にしたレポートでも、ハンドドライヤーは出荷台数、売上ともに順調に増えていくと予想されています。

成長の理由はやはり環境負荷とコスト削減が主であり、特に商業施設や複合施設では数年間で14.0%を超えるCAGRで成長すると推定されています。

しかし、当然良いところばかりではなく問題点も見つけました。

わたしが最も問題だと思ったのはメーカー側の姿勢です。

その中でも特に気になったのは、わたしたちハンドドライヤーを実際に使う側に対する啓蒙活動がほとんど行われていない事です。

これは特に日本のメーカーに対して強く感じました。

メーカーが向いている方向は販売先である施設のみ(ホームページに記載されているのもほとんどコストや環境負荷の事)。これではいつまでたってもわたしたち消費者が正しい知識を得る事はできないでしょう。

そして今回のようにハンドドライヤーの不衛生さがクローズアップされた時、普通の業界なら反論や対策のひとつでもすると思うのですが、わたしの知る限り日本企業は全くの無視(Dysonは名指しで製品を批判されているので当然反論している)。消費者は不安に思っているはずだ何とかしなくてはなどとは思わないのでしょうか。

こういった製品は消費者の健康問題にも直結するのでメーカー側は売りっぱなしではなくしっかりと啓蒙活動をする必要があるとわたしは思います。

メーカー側が設置者に対して、清掃や定期的な部品交換などのメンテナンスの必要性や、消費者に対して正しい使い方を教える重要性を説き、設置者はそれをしっかりと遵守し、わたしたちもそれに答えて正しい手洗いの後に正しくハンドドライヤーを使用するという流れをつくらなくてはなりません。

そうなる事によって初めてハンドドライヤーは様々な負のレッテルを拭い去り、たくさんの人に使ってもらえるようになるのではないでしょうか。

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本記事作成の参考にした外部記事

>>Evaluation of the potential for virus dispersal during hand drying: a comparison of three methods-Wiley Online Library

>>european tissue symposium-THE EUROPEAN TISSUE PAPER ASSOCIATION

>>Life Cycle Assessment of Hand Drying Systems

>>Questions & Answers about the new NSF Protocol P335

>>Hand Dryers Market Size And Share, Industry Report, 2024-grand view reseach

>>Dyson Airblade

>>株式会社AirLabo公式サイト

>>どうやったら早く乾く?ハンドドライヤーメーカーにきく – デイリーポータルZ

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