ここ数年でようやくノロウイルスについての一般常識「アルコール消毒は効果がない」が認知されてきました。
けれどもまだまだノロウイルスにアルコールが有効と思い込んでいる人も多いかと思います。アルコール系の消毒剤や除菌剤のメーカーの中にノロウイルスに効果があるという説明をしているところがあるのもその要因のひとつですが…。
ノロウイルスにアルコール消毒が期待できない事にはきちんとした理由があります。
目次
アルコール消毒の仕組み
アルコール消毒はさまざまな細菌やウイルスに有効ですので、現在最もよく使用されている消毒方法のひとつではないでしょうか。
アルコール消毒のメカニズムですが複数の理由があります。
[note]1、細胞膜の脂質を溶かし出す。
2、タンパク質の変性。タンパク質の構造を変化させて機能を失わせる。
3、脱水作用。エタノールは非常に揮発性の高い液体なので細胞内部に入るとすぐに揮発して蒸発してしまいます。この時、細胞内部の他の液体もろとも蒸発するので細胞内部をからからに乾燥させてダメージを与えます。
(また細菌の芽胞に対しては効果が非常に弱いことが知られています。)[/note]
キーワード「エンベロープ」
ノロウイルスにアルコール消毒が期待できない事の理由にエンベロープという物の存在があります。
上の写真はヒト免疫不全ウイルスの模式図ですが、最外周の紫色の膜がエンベロープです。
インフルエンザウイルスやRSウイルスなど約80%のウイルスがこのエンベロープという膜を持っています。
エンベロープはその大部分が脂質から成っているので、上の消毒メカニズムで挙げたように脂質を溶かす事ができるアルコール(エタノール)や有機溶媒、石鹸などで簡単に破壊する事ができます。
そして、アルコールなどによってエンベロープを破壊されてしまうと大多数のウイルスは感染力を保てずに失活します。
しかし、ノロウイルスはこのエンベロープという膜を持たないウイルスなのです。
アルコール系消毒剤がエンベロープを破壊して失活化させようとしても、破壊すべきエンベロープ自体をそもそも持っていないノロウイルスには無力です。
ノロウイルス以外のエンベロープを持たないウイルスで有名なのはノロウイルスと同じく感染性胃腸炎の原因であるロタウイルス、風邪症候群の原因であるアデノウイルスなどです。
今までアルコールでノロウイルスを消毒できると思っていた人は「ノロウイルスはエンベロープを持っていないからアルコールでは消毒できない」とこれからは覚えましょう。
[note]近年、アルコール(濃度を問わず)に緑茶抽出物(カテキンなど)や果物エキスを添加したり、酸でph調整する事で死滅可能と説明している商品もでてきましたが、生活環境下でなおかつ短時間(数時間かければある程度は不活化できるかもしれないが)では十分な効果は見込めません。
国立医薬品食品衛生研究所のノロウイルスの不活化に関する調査でも、上記のような新型エタノール系消毒剤10種以上の中でB評価は数件ありましたがA評価は1件もありませんでした(A、B、Cの3段階評価でAは十分な効果、Cは効果なし)。[/note]
ノロウイルスの予防に最も効果があるのは手洗いです。そしてノロウイルスを消毒するには85℃で1分以上の加熱、もしくは次亜塩素酸系での消毒が常識です。正しい知識を持って予防していきましょう。