日本は地形が急峻(傾斜が急で険しいこと)なので雨量の増える夏場(6~9月)や融雪期(3~4月)にはしばしば河川が氾濫し、洪水や山崩れ(土砂崩れ)などの災害が起こります。
水害時には様々な衛生問題が起こりますので、衛生管理や対策についてまとめてみました。
目次
浸水した家屋の対策
家屋が浸水した後で自宅に戻った時に注意することをまとめました。
1.ガス漏れがない事を確認した後に屋内に戻る
ガス漏れが確認されたり、ガスの臭いが僅かでもする時は自宅には入らず、器具栓、ガスの元栓※1、ガスメーター※2バルブ(メーターガス栓)、容器バルブの全てを閉めてください。
対応方法が分からない場合はガス販売店か緊急時連絡先に連絡しましょう。
※1 元栓の場所は都市ガスは計量メーター横、プロパンはボンベ置き場にあることが多い
※2 ガスメーターはマンション・アパートの場合、共用廊下の扉(メーターボックス)の中や玄関脇、建物外に並んで設置されている
一戸建ての場合は、屋外の玄関・浴室付近の壁際に設置されていることが多い
[参照:東京ガスホームページ]
2.カビの発生への対応
洪水後、数日してから家屋に入る場合にはカビの発生に注意が必要です。
家屋に大量に発生したカビは感染症やアレルギー、中毒などの原因になります。
[warning]気管支肺アスペルギルス症:免疫力が低下している人や肺に病変がある人、アスペルギルス(カビの一種)のアレルギーを持つ人などに起きやすい。症状は喘息発作とよく似ており、咳や淡、重症例では食欲不振や血痰・喀血など。
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[warning]クリプトコックス症:クリプトコックス属真菌による感染症。免疫力が低下している人に起きやすい。症状は発熱や頭痛、嘔吐、項部硬直(顎を前に曲げられない状態)などの髄膜刺激症状、性格変化や意識障害などの神経症状が報告されている。
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[warning]夏型過敏性肺炎:6~10月の夏期に発生しやすい病気で、埃の中のトリコスポロンというカビによって引き起こされる。症状は咳や息切れ、発熱、倦怠感などが認められる。
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家屋に入る際は必ずマスク(できればゴーグルも)を着用し、速やかにドアと窓を開けましょう。
その後一度屋外に出た後、十分換気された事を確認(最低でも30分以上)してから改めて家の中に入ってください。
清掃が完了するまでは免疫力の低い子供やお年寄り、ペットなどは室内に入らないようにした方が賢明です。
市販のカビキラーなどでも除去しきれないカビにはピューラックス(次亜塩素酸ナトリウム)とアルコール剤の併用がおすすめです。
具体的にはピューラックスを10倍程度に薄めてから布に染み込ませ、カビが生えている場所に貼付けて30分くらい置きます。
その後、きれいに水洗いしてしっかり乾燥させてからエークイックなど除菌力の高いアルコール剤をスプレーして完了です。
ただし、この方法でも細菌芽胞に対しての効果は限定的ですので時間経過でまたカビが生える可能性があります。
3.清掃時の注意点
・室内を乾燥させるために開けられる限りのドア、窓を解放します。
・清掃時の怪我防止のために、長袖の服・ズボンを着用し、厚みのあるゴム手袋、ゴム長靴、ゴーグル、マスク(可能なら防塵マスク)をつけて清掃に当たります。
・床、壁、金属部分、調理台(シンクも含む)などは水と洗剤(洗濯石鹸や食器洗剤)で洗い流し、泥やゴミなどを取り除きます(高圧洗浄機があれば非常に便利だが使用時は必ずマスク・ゴーグルを着用の上、換気に注意)。
・浸水して洗うことができない家具(洗濯不可のカーペットや布製ソファーなど)は撤去します(表面はきれいにできても内部まで汚水が染み込んでいる可能性が高い)。
・電源が生きているなら乾燥を促すために扇風機やサーキュレーターを使いましょう。
・浸水した衣類、布類は80℃以上の熱水に10分以上浸けた後洗濯・乾燥させてください(消毒のため)。
色落ちをしても大丈夫なものはハイターで対応しても大丈夫です。希釈・浸け置き時間の目安は1Lの水に10ml(キャップ1杯25mlなので概ねキャップ半分弱)で約30分です。
・清掃終了後はしっかり手を洗浄し、シャワーを浴びて汚水などを洗い流します。
・感染予防のために清掃時に着用していた衣類は通常の洗い物と分けて洗濯してください。
4.消毒時の注意
・消毒は、必ず対象物の泥や汚れを十分に取り除いてから行ってください。泥や汚れには大量の有機物が含まれているため、消毒剤の効果が発揮されません。
・行政では消毒に希釈した次亜塩素酸ナトリウムや塩化ベンザルコニウムをすすめています。ただし、塩化ベンザルコニウムの殺菌力はあまり高くないので注意が必要です。
その他、次亜塩素酸水やアルコール系除菌剤(エークイックPROなど)も十分な除菌力を持っているのでおすすめです。
エークイックは業務用のFORTEを購入可能ならそちらを(FORTEの方が除菌力が強い)手に入らない場合はPROを使ってください。
・消毒剤や除菌剤は希釈倍率や期限などに注意して使用してください。適切な使い方をしないと効果が発揮されないこともあります。
・ハイターをピューラックスの代わりに使う場合には濃度管理に特に注意してください。
5.具体的な衛生対策
家屋が浸水した場合の具体的な洗浄・衛生対策を記載します。高圧洗浄機があれば効率良く洗浄作業が行えます。
[note]【土砂を取り除く際の豆知識】
舗装会社や外構業者の方がよく使っている方法です。
まずペール缶(18Lや20Lの規格の鋼鉄製の缶で油や塗料、溶剤などの液体を入れる際に用いられる)などの空き缶の底部分をくり抜き、土嚢袋の内側に差し込みます(ペール缶でなくてもある程度しっかりしていて土嚢袋に入れば代用はきく。バケツなど)。缶に土嚢袋を被せるようにセットすればやりやすいです。
そうすることによって土嚢袋の口が大きく開いて固定された状態になるので土砂がいれやすくなります。
土嚢袋に土砂が詰まったらペール缶を引き抜けばOKです。1工程手間を省ける上に作業性も上がるので人力撤去の際はおすすめです。
※底をくり抜く時は怪我に注意してください。ディスクグラインダーを使えば簡単にできますが、コツが必要なので慣れた方が近くにいればやってもらった方がいいかと思います。
土嚢袋の基本サイズは48cm×62cmです。いろいろな種類がありますが、消耗品なので安いもので大丈夫です。
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床上浸水
室内は食事や睡眠などを行う重要な場所なので、徹底した洗浄・衛生対策が必要です。
・水が完全に引いた後に濡れた畳や不要物を撤去します。
・汚れた家具や床、壁などはまず水で十分に洗い流し、その後雑巾で水拭きします。
・食器類、調理器具などは水洗いし汚れをきれいに洗い流します。
・食器棚、冷蔵庫などは汚れをきれいに拭き取ってください。
家の周囲・床下浸水
土砂等をしっかりと取り除いた後に水道水で洗い流し、完全に乾燥させることが重要です。
床下に流れ込んだ土砂や水気が残っている場合は、湿気によって家屋の基礎・土台(床組)などに重大な影響がでる場合があります。
・汚泥や不要物を片付けます。
・庭木や外壁についた泥を水で十分に洗い流します。
・床下の換気口のゴミをきれいに取り除き、床下の風通しを改善します。
・床下は器具や水を用いて汚泥を取り除き、その後吸収性の高い布などで水分を除いた後、扇風機・サーキュレーターなどで十分に乾燥させます。
・基本的に土壌の消毒は不要です。
食中毒・感染症の予防
水害時には食中毒や感染症が多発します。さらに、人が大勢集まることも多いので感染力の高い疾病は集団感染を起こす可能性もありますので注意が必要です。
感染予防の三原則をベースに十分な感染予防対策をとりましょう。
・受水槽は安全と衛生を十分に点検・確認した後に使用しましょう。
・水に浸かってしまった食品や、保存温度が保てなかった生もの・要冷蔵(冷凍)食品は絶対に食べないでください。
・自家栽培した野菜の生食は避けてください(汚泥などで細菌が多く付着している可能性がある)。
・食事の前や用便、清掃の後などは石鹸と流水を用い正しい手洗い方法で洗浄してください。
手洗いは一番重要な感染予防方法ですが、正しい手洗いを行わないとあまり意味がありません。
・災害時には井戸が汚染される可能性が大きい為、井戸水は水質検査で安全が確認された後で使用してください。
いつも頼んでいる業者があればそれで、もしなければインターネットでも水質検査依頼が可能です。
・破傷風ワクチンの接種歴を確認し、10年以内に接種歴がない場合は医療機関に相談してください。
・水害時には蚊が異常発生する可能性があります。
デング熱やジカ熱、チクングニア熱などの蚊媒介感染症に罹患する可能性も0ではないので対策をしておいたほうがよいかもしれません。